2013年4月16日火曜日

前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社,2013年3月刊)を読む。ショックで夜も眠れません。

  いずれ読んでおかなくてはいけないと思って買い込んである本の山が大きくなるばかりです。そこで,仕方がないので,締め切りのきている原稿を片隅に追いやったまま,気になっている本から,寸暇を惜しんで読んでいます。その一冊が,今回,とりあげたテクストです。

 高校生を読者対象にすえた「戦後再発見双書」の第2巻です。ですから,とても読みやすく編集されていますし,文章もわかりやすく,ぐいぐい引き込まれるようにして深みにはまっていきます。そして,ほんとうにそうなのか,とこれまでのわが無知を恥じ入るばかりです。

 「日米地位協定」なるものが諸悪の権化だ,とわたし自身もそう考えてきました。しかし,このテクストを読み終えたいまとなっては,「諸悪の権化」などという甘っちょろい考えでは駄目だ,と打ちのめされています。

 たとえば,「日米地位協定」は,言ってみれば宗主国と植民地の関係に等しい(高橋哲哉),ということが明々白々となってしまうからです。あるいはまた,オスプレイの配備で明らかになってきましたように,「本土の沖縄化」が間違いなく進展しているという事実です。そこに,TPPの圧倒的不平等を剥き出しにしたままの「日米合意」です。これは,宗主国と植民地の関係以上のものではないか,とわたしは考えてしまいます。この「日米地位協定」は,敗戦後のアメリカの占領政策がそのまま継続されていて,それがそのとおりに実行されている,恐るべき「協定」だということです。「日米安全保障条約」はたんなる眼くらましにすぎなかった,ということをいまごろになって知り,情けないかぎりです。

 「日米地位協定」の正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約第六条にもとづく施設および区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」というとてつもなく長いものです。この正式名称の前半部分,すなわち「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力」まではすんなりと読むことができます。問題は「および」からはじまる後半部分です。すなわち「安全保障条約第六条にもとづく施設および区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」というところです。

 わたしたちは,日米安全保障条約の調印によって戦後の占領政策から解放され「独立国」としての主権を回復した,と学校で教えてもらいました。そして,そういうものだと信じていました。が,実際はそうではなかった,ということです。つまり,「安全保障条約」は一種の隠れ蓑のようなもので,第六条にもとづく「地位協定」という,とんでもない条件つきだったわけです。その条件が,これまた想像を絶する恐ろしいものであるわけです。こんな条件をよくもまあ飲んだものだ,といまさらながら驚いてしまいます。

 日米安全保障条約(新・1960年改訂)そのものは全部で10カ条からなる簡素なものです。しかし,第六条にもとづく「日米地位協定」は全部で28カ条からなる大部なものです。しかも,微に入り細にわたり,日米間の「地位」に関する詳細な取り決めが書き込まれています。これらを丹念に通読するだけで,絶望の淵に追い落とされてしまいます。日本国はアメリカ合衆国の「いいなり」になるしかないように,<条約によって>がんじがらめにされているからです。

 たとえば,以下のようです。
 「日米安全保障条約」の第六条では「日本国の安全に寄与し,ならびに極東における国際の平和および安全の維持に寄与するため,アメリカ合衆国は,その陸軍,空軍および海軍が日本国において基地を使用することを許される」と高らかに謳われています。

 つまり,「安全に寄与する」とアメリカ合衆国が判断すれば,日本国を基地として自由に使うことができる,とクギが刺してあるというわけです。その上で,さらに,具体的な事例を挙げながら「日米地位協定」の圧倒的に不平等な内容を平然として規定しています。これらの内容の一つひとつは,読めば読むほどに恐ろしくなってきます。言ってしまえば,敗戦による「無条件降伏」の状態を,アメリカ合衆国一国によって持続されている,ということです。ですから,なにを言われても「はい,わかりました」というしかないようになっています。こんなことが国際社会で承認されている,それがアメリカという国のやり方だ,と知らしめられます。

 「日米安全保障条約」というものが,いかに,日本国を小馬鹿にした条約であるかということを,まだ,多くの日本人は知らないままでいます。かつて「安保反対」闘争を組んで,大々的な反対運動を展開したあの時代の学生さんたちは立派だったと,いまごろになってしみじみ思います。ほとんど条文を読むこともしないで(たった10条しかないのに),政府自民党のいうなりに「思考停止」のまま「隷従」した多くの国民の無能さのツケが,いまごろになって跳ね返ってきているという次第です。後の祭りとしかいいようがありませんが・・・・。

 でも,このまま放置しておいていいという問題ではありません。一刻も早く,この圧倒的不平等条約である「日米地位協定」の廃棄を,声を大にして要求しなくてはなりません。なのに,日本国は,この「日米地位協定」の廃棄に向けての交渉を,まだ一度もやっていない,というのです。丸飲みしたまま容認しているというわけです。沖縄が本土に復帰して「40年」を経過しているというのに・・・。困ったものです。いまからでも遅くはない。気づいたときがスタートのときです。みんなで総懺悔をして,やり直しにとりかからなければなりません。そのための絶好のテクストです。ぜひ,読んでみてください。

 このテクストは,PART1とPART2,それに資料編という三部構成になっています。PART1は「日米地位協定Q&A(全17問)」,PART2は外務省機密文書「日米地位協定の考え方」とは何か,そして,資料編には『日米地位協定』全文と解説,その付録として「日米安全保障条約(新)」が載録されています。ですから,このテクスト一冊で「日米地位協定」が含みもつ問題の核心はすべてわかるようになっています。

 ちなみに,PART1の「Q&A」にはつぎのような問いが立てられています。
 〇東京大学にオスプレイが墜落したら,どうなるのですか?
 〇米軍が希望すれば,日本全国どこでも基地にできるのですか?
 〇日米地位協定がなぜ,原発事故や再稼働問題,検察の調書ねつ造問題と関係があるのですか?
 という具合です。こういう高校生が疑問をもちそうな質問を立てて,それに簡潔に,わかりやすく応答しています。

 蛇足ながら,アメリカという国は,建国以来,先住民の土地を「条約」という名のもとに,詐欺にも等しいやり方でつぎつぎに奪い取ってしまったという歴史と伝統をもっています。「インディアンの襲撃」などという名の西部劇がひところ大はやりでした。しかし,この西部劇は,騙されたインディアンたちの怒りの方に「正義」がある,ということが論破されてしまいました。言ってしまえば,アメリカ合衆国の「恥部」をみずから露呈するものであった,というわけです。ですから,その結果として,西部劇はいっせいに姿を消してしまいました。

 このアメリカ合衆国の性根は,いまも基本的には変わってはいません。アメリカ主導ではじまったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も,アメリカのいいなりになるように,規約のなかに仕組んであります。一番ひどいのは,利益の配分です。アメリカが圧倒的に儲かるように仕組んであります。いろいろ異論がでていますが,すべて,力で押さえ込んできました。アメリカ・チームは早々に負けてしまっても,収益は独り占めできるようになっています。そのために,日本チームは大きな犠牲を払って,「自発的隷従」よろしく,おおいに「貢献」している,というわけです。

 いささか長くなってしまいましたので,この稿はここまでとします。

 必読のテクストとしてお薦めします。ひとりの日本人として。

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