2014年6月19日木曜日

「古代ローマのキルクス(戦車競技場)」。

 隔月で『SF』(Sports Facility)に連載している「絵画にみるスポーツ施設の原風景」の第32回目に取り上げたのが,この「古代ローマのキルクス(戦車競技場)」。


 この図像につけたキャプションは以下のとおりです。

 「パンとサーカスを!」というよく知られたキャッチ・フレーズがあります。古代ローマの帝政時代に,ローマ市民が,時の皇帝に向かって要求した言葉だと言われています。パンとは食料のこと,サーカスとは娯楽のこと,すなわち,”食べ物と娯楽をわれらに与えよ!”と要求したというわけです。

 サーカスという言葉の語源は,前回触れましたように,キルクス(circus)というラテン語を英語読みしたことから始まります。そのキルクスの原点が,今回取り上げた図像です。すなわち,戦車競技場。精確に言えば,4頭立ての戦車競走を行う専用競技場ということです。図像をよくご覧ください。競技場の中央に横一列にさまざまなモニュメントを飾った仕切りがあります。この仕切りの周囲を4頭立ての戦車が7周して,その速さを競う競技,それがキルクス競技です。

 このキルクス競技の見どころは,この仕切りの両端を鋭角に廻るコーナリングにあります。4台の戦車が走りますので,このコーナーは大変なことになります。そこをなんとか凌ぎきることが腕の見せどころというわけです。

 コーナーでは大変なデッドヒートが展開されます。この両端の空間(スペース)のことをアリーナ(arena)と呼んでいました。アリーナというラテン語は「砂」という意味です。このコーナリングで鎬を削るスペースに砂をまいて,さらにコーナリングを困難にしたのでしょう。これが,こんにちのアリーナの語源です。

 4頭立ての戦車は,当時の最先端技術の粋を結集した戦闘用の武具でした。この4頭立て戦車の性能と操作技術が,古代ローマ帝国の圧倒的な戦力となっていました。ですから,時の皇帝は,一方では「パンとサーカスを!」という市民の欲望に応えつつ,賭け金で巨大な収益を手にし,他方では,優秀な戦士の養成と性能のいい戦車の開発に勤しんでいた,というわけです。

 このように両者の利害が一致していましたので,キルクス(戦車競技場)はローマ帝国の力の及ぶ広大な植民地の隅々にまで建造され,盛んに行われていました。まさに,キルクス競技,恐るべしです。同時に,古代のスポーツとはそういうものだったのだ,とも言えます。

 以上です。

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