2011年7月2日土曜日

7月1日から東京新聞。福島県伊達市4地区,新たに特定避難勧奨地点に。

恥ずかしながら,長年愛読してきた朝日新聞に別れを告げ,7月1日から東京新聞に乗り換えました。同じ新聞なのに,そこから伝わってくるメッセージ性はまるで違います。わたしの,かねてからの感想をひとことで言えば,東京新聞は「市民目線」,朝日新聞は「上から目線」。あるいは,前者は「生命重視」,後者は「経済重視」。この違いは,3・11以後のわたしたちの生き方を考える上では,天と地ほどの違いがある,と考えています。

これからは(3・11以後は)「生命重視」,つまり人間が「生きる」という原点から考え直さなくてはいけない,と覚悟を決めました。これは一種の「踏み絵」のようなものでもあります。その点で,いまの朝日新聞は地に足がついていない,とわたしは判断しました。

さて,7月1日の東京新聞一面は,放射能汚泥関東3万トン(焼却灰など保管限界,業者引き取り拒否),東電作業員1295人所在不明(4月以降従事4325人,半数が未検査),伊達市4地区避難勧奨(政府指定ホットスポット113世帯),消費増税2010年代半ば(一体改革最終案,段階的に10%,政府案骨抜き)という四つの記事が大見出し。

まずは伊達市の記事に目がいきました。伊達市は,飯館村の隣りにある山の中の市。福島第一原発からは50キロも離れているのに,放射線量が局地的に高いホットスポットが4地区にあるので,そこを新たに「特定避難勧奨地点」として政府が指定したという記事です。伊達市の隣の飯館村は,一昨日,車で通り抜けたときに,驚くほど高い放射線量の値を示したところです。ここはすでに避難勧奨地点として指定されていますが,ほとんどの家は,いまもここで暮らしていて,農作業もいつもどおりに行われている,と聞きました。実際,わたしの眼にも,いわゆるふつうの山の中の農村風景とどこも違わない,のどかな光景としてみえていました。痛くもない,眼にもみえない放射性物質の恐さを感じました。

新聞記事によれば,「勧奨地点は,原発の半径二十キロ圏内にある警戒区域や計画的避難区域から外れているのに,年間の積算被ばく線量が二〇ミリシーベルトを超える可能性がある場所が対象。住居単位で指定する」とあります。問題はこの「年間積算被ばく線量二〇ミリシーベルト」という基準にあります。「小学生以下の子どもや妊産婦がいる家に配慮した」と記事にありますが,ほんとうに「二〇ミリシーベルト」で大丈夫なのか,という議論があるのはよく知られているとおりです。これは,医学的根拠というよりは,政治的根拠の方が強いのではないか,というのが今回のわたしの三日間の旅で考えたことでした。

それを裏づけるような記事が,同じ7月1日の「こちら特報部」という2面ぶち抜きの囲み記事で,大きく取り上げられています。そこには「外部被ばく年1ミリシーベルト超」(学校疎開求め仮処分申請,福島・郡山小中7校の児童や保護者」という見出しが躍っています。その左側のページには「健康守るのが最優先」という大きな活字が躍り,「同級生と一緒なら我慢」「原発事故後500人転校」という小見出しがつづき,「学校疎開」を申し立てた母親の記事が大きく取り上げられています。

福島市や郡山市では,年間「1ミリシーベルト」で大議論になっているのに,伊達市のホットスポットでは「二〇ミリシーベルト」が基準になっています。この「差」はいったいなにを意味しているのでしょうか。確たる医学的根拠にもとづくものではない,ということは明らかです。もし,「1ミリシーベルト」を基準にしてしまうと,福島市や郡山市はすべて「避難勧奨」の対象となってしまいます。そうなると,もはや,受け皿が間に合いません。民族大移動がはじまることになるからです。そこを視野に入れての「政治的判断」をめぐる議論の攻防が繰り広げられている,ということのようです。しかし,その「差」の大きさはなにか,と首をかしげてしまいます。

こういう人間の死活問題にかかわる大問題が,福島県では日々,繰り広げられているというのに,世の中,あげて「節電」関連情報で埋めつくされています。これから7月,8月は,おそらく「節電」に人びとの目は釘付けにされたまま,フクシマもツナミも忘却の彼方に消え去ってしまうのではないか,とわたしは危惧しています。その点で,東京新聞は7月1日の一面には「節電」の「せ」の字もありませんでした。そして,現段階での最大のテーマである「放射線量」をめぐる事態の推移に,読者の目を向けさせている東京新聞の姿勢を高く評価したいと思います。

これでようやく新聞紙面に向って大きな声で「違うだろう!」「なにを考えているんだっ!」などと吼えなくてもすみそうです。わたしにとって東京新聞はとてもいい精神安定剤となることでしょう。ありがたいことです。


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