2013年3月15日金曜日

体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)・25文科初第1269号,を読む。

 平成25年3月13日付けで,表記の〔通知〕が,文部科学省初等中等教育局長・布村幸彦,文部科学省スポーツ・青少年局長・久保公人の名前で出された。

 この〔通知〕の相手先は以下のとおり。
 各都道府県教育委員会教育長殿
 各指定都市教育委員会教育長殿
 各都道府県知事殿
 付属学校を置く各国立大学法人学長殿
 小中高等学校を設置する学校設置会社を所轄する構造改革特別区域法第12条第1項の設定を受けた各地方公共団体の長殿

 そして,長い前文があり,そのあとに「記」として,以下の5項目に分けて詳細な内容が示されている。
 1.体罰の禁止及び懲戒について
 2.懲戒と体罰の区別について
 3.正当防衛及び正当行為について
 4.体罰の防止と組織的な指導体制について
 5.部活動指導について

 これに「別紙」なるものが付されている。それは,
 学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例,とある。内容をみると,
 (1)体罰(通常,体罰と判断されると考えられる行為)
  〇身体に対する侵害を内容とするもの(7項目)
  〇被罰者に肉体的苦痛を与えるようなもの(3項目)
 (2)認められる懲戒(通常,懲戒権の範囲内と判断されると考えられる行為)(ただし,肉体的苦  痛を伴わないものに限る)(6項目)
 (3)正当な行為(通常,正当防衛,正当行為と判断されると考えられる行為)

 以上が,今回の〔通知〕の概要である。

 かなりの分量があり,その上,役所の文書に慣れていないので,読解するのに相当の時間がかかる。もっとも,これを受け取る各「長」の方々にとっては問題はないのかもしれない。しかし,わたしのような法令文に慣れない人間にとっては一苦労である。しかしまあ,このご時節でもあるので,頑張って熟読してみた。

 ひとことで言えば,拍子抜けがした。とりわけ,「別紙」に記載された,(1)体罰,(2)認められる懲戒,(3)正当な行為,のなかに示された具体例を読んで呆気にとられてしまった。

 まずは,(1)体罰(通常,体罰と判断されると考えられる行為),という表記につまずいた。そして,何回も読み返してみた。その結果,「体罰」の概念を明確に表記することは不可能なのだ,と理解した。だから,「通常,体罰と判断されると考えられる行為」と括弧書きすることになる。「体罰と判断されると考えられる行為」ということは「体罰と判断されないと考えられる行為」も,このなかには含まれているということらしい。

 もっとわかりやすくするために,
 〇身体に対する侵害を内容とするもの,の具体例を以下に列挙してみよう。
 ・体育の授業中,危険な行為をした児童の背中を足で踏みつける。
 ・帰りの会で足をぶらぶらさせて座り,前の席の児童に足を当てた児童を,突き飛ばして転倒させる。
 ・授業態度について指導したが反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする。
 ・立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かず,席につかせるため,頬をつねって席につかせる。
 ・生徒指導に応じず,下校しようとしている生徒の腕を引いたところ,生徒が腕を振り払ったため,当該生徒の頭を平手で叩(たた)く。
 ・給食の時間,ふざけていた生徒に対し,口頭で注意したが聞かなかったため,持っていたボールペンを投げつけ,生徒に当てる。
 ・部活動顧問の指示に従わず,ユニフォームの片づけが不十分であったため,当該生徒の頬を殴打する。

 以上である。

 何回も何回も読み返してみた。茫然自失というべきか,だんだんと情けなくなってきた。こんなレベルの作文を文部科学省の官僚が大まじめに書いていること,そして,これを直属の局長がチェックをし(そこにいくまでに何人ものチェックがなされているはず),なんの疑問もいだくことなくみずからの名のもとに,各都道府県教育委員会教育長をはじめ,学長,知事宛てに〔通知〕として発令する,この無神経さ,無責任さがまかりとおっているという事実。

 わたしは若いころには,かなり長い間,体育教師として仕事をしていたことがある。そして,いまも,教え子たちから学校現場の実情については,かなりの情報をえている。そういう視点から,この文章を読むと,おそらくは,教育現場のことは<報告>という名の「伝聞」「絵空事」程度にしか理解できていない人たちの作文ではないか,と考えてしまう。もし,これが日本の教育行政の中枢の実態だとしたら,日本の教育に未来はない。

 教育現場の最先端で,必死になって児童・生徒と向き合っている先生たちが,この〔通知〕を読んだら,笑ってしまうだろう。なんの問題解決にもなっていないから。問題は,体罰の「グレイゾーン」を明らかにし,そこに,どのような線引きをするのか,そこが問われているのだから。

 この〔通知〕については,いいたいことが山ほどあるが,今日のところはここまでとする。
 みなさんのご意見をお聞きしたい。

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