2013年5月27日月曜日

NHKスペシャル・病の起源・”脳卒中”。落しどころに疑問。「科学」依存症からの脱出こそが課題。

 NHKスペシャル・病の起源の第2回目の放映が5月26日(日)午後9時からありました。第1回目の内容がとてもよかったので,第2回目も注目していました。そして,期待どおりの内容があり,深く考えることができました。

 ただし,第1回目同様に,第2回目もまたさいごの落しどころが奇怪しい,という印象をもちました。それをひとことで言ってしまえば,この番組制作者たちの「科学」依存症からの脱出が急務だということです。つまり,なにがなんでも病を最新の「科学」で克服できる/しようというある種の信仰のようなものです。その考え方そのものの方が「病的」ではないか,とわたしは憂えています。このことを最初に強調しておきたいとおもいます。

 第2回目のテーマは”脳卒中”。この脳卒中という病が人類の進化とともに増大したというのが,この番組の趣旨です。つまり,人類進化の陰に埋め込まれた病を明らかにしよう,というわけです。そして,そのプロセスをわかりやすく3段階に分けて整理し,問題の所在を明らかにしてくれています。そして,そのこと事態はわたしたちの理解を助ける上でありがたいことです。しかし,よくよく考えてみますと,この説明の仕方もまた,きわめて科学一辺倒で,やはり「科学」依存症にどっぷり浸かっているなぁ,という印象をつよくもちました。なにを言いたいのかといえば,ヒトのからだをモノとしてしか考えていないのではないか,という根源的な問いです。

 そのあらましは以下のとおりです(ご覧になった方も多いとおもいますので,ごく簡単に説明しておきます)。

 ”脳卒中”で死亡する人が,毎年,世界で1,500万人いると言われています。いまから700万年前にチンパンジーから分かれてヒトが誕生しますが,チンパンジーには”脳卒中”という病はありません。その他の哺乳類にもありません。しかし,ヒトだけが”脳卒中”という病をわがものとするようになった,というのです。

 その理由/原因はなにか。大きく分けると三つあるといいます。ひとつは,脳の巨大化,ふたつには塩との出会い,みっつには食事への異常な欲望にある,という次第です。

 脳の巨大化は,二足歩行によって自由になった手を使うことによって,脳が急速に巨大化したといいます。このことはこれまでにも言われてきたことと変わりはありません。しかし,最初は不器用だった手のつかい方も次第に器用さを身につけるようになってきます。そうして,脳神経や脳細胞が急速に発達していくことになりますが,それにともなって大量の血液を脳の隅々まで送り込まなくてはならなくなります。が,どういうわけか脳の血管の壁は薄いまま,こんにちにいたっているというのです。この事実がわたしにはとても新鮮でした。つまり,主要な動脈の血管壁が薄いまま,毛細血管だけが異常に増えていくことになり(全長約600キロメートルに及ぶ),その大量の血流量に耐えられなくなり,微小動脈瘤があちこちにできるようになります。これが,”脳卒中”を引き起こす誘因となっているというわけです。

 このことが急速に進んだのが約200万年前からだといいます。とくに,石器を用いはじめる約140万年前から脳の運動野がどんどん発達することになります。その結果,脳の巨大化は加速していくことになります。そうして,約6万年前には,人類は出アフリカをはたし,全世界にヒトが拡散していくことになります。このとき,”塩”との新しい出会いをします。塩のなかにふくまれているナトリウムが,ますます発達していく神経細胞や筋肉にはどうしても必要です。つまり,文明化の過程で”塩”はなくてはならない必需品として大量に消費するようになるというわけです。こうして,特殊なタンパク質がわたしたちのからだのなかに蓄えられるようになります。が,このタンパク質がより多くの”塩”を求めるようになります。それは麻薬と同じようなはたらきをしていて,”塩”を求める欲望は抑えがたくなってしまいます。その結果,ヒトは高血圧症という病をえることになります。

 最後の仕上げは,塩と脂肪の多い食事です。美味しい食べ物への欲望は,いまや,とどまるところを知らないほど高まってしまいました。その結果,過食,運動不足というダブル・パンチを受けて,ますます肥満体を増産し,慢性的な高血圧症が広まっていくことになります。こんにちのわたしたちは,いま,この段階で苦しんでいるというのが現状です。

 かくして,脳の巨大化,塩の大量消費,栄養過剰の食事,という三拍子が揃い,”脳卒中”という病をえることになります。しかも,年々,増加の一途をたどっています。

 ところが,”脳卒中”を発症させない最新医学がここまで進んでいて,そこに光明を見出すことができるだろう,と言ってこの番組が終わります。それは,「幹細胞」を脳に送り込むことによって,もっと丈夫な毛細血管をつくることができるようになる,というものです。この終わり方は,第1回目とおなじパターンです。つまり,巨大化した脳の力を借りて,その対策を練ればいい,というきわめて安易なものです。

 わたしはこういう発想には抵抗があります。巨大化した脳の病を巨大化した脳の力を借りて克服することには限界があると考えるからです。もちろん,新しい治療の方法を見出すために「科学」の力を軽視するつもりはありません。が,それと同時に,あるいは,それ以上に,もっと根本的な解決策を講じるべきではないか,というのがわたしの考えです。

 すなわち,美味しいものが食べたいという過剰な欲望がわたしたちのからだを蝕んでいることが明らかなのですから,その欲望をコントロールする方策を,もっと鮮明に打ち出すべきではないか,とわたしは考えています。となりますと,過食,運動不足による現代病をトータルに考えることの方が,むしろ大事ではないか,と。つまり,からだの病理だけをモノ的にとらえるのではなくて,人間のからだとこころのトータルな問題として,欲望という名の病理には対応すべきではないか,というわけです。

 こんなところにも,いまだに「科学神話」から抜けきらないメディアの体質のようなものが,ちょろりと顔をみせているようにおもいました。

※断るまでもなく「幹細胞」とは,いま,話題の「人工多能性幹細胞」のこと,すなわち,「iPS細胞」のこと。これに頼れば,脳内の毛細血管も補填できるという,きわめて安易な発想がNHKの番組制作者の意識のなかにあることが,はしなくも露呈している,という次第です。
 もうひとこと断っておけば,「iPS細胞」は「核エネルギー」と同様,自然界には存在しないものを「人工的」にテクノロジーがつくりだした産物です。ひとたび,トラブルを起こすと,人間の力では制御不能に陥る,きわめて危険な産物です。
 さらに断っておけば,「核」も実験段階にあったものを前倒しして,戦争に利用し,さらに,原発に利用しました。しかし,その「核」がいったんトラブルを起こすと,もはや,人間の手には負えない代物となってしまいます。そして,あとは,何十万年もの間,じっと待つしかないということも,いまではよく知られているとおりです。「iPS細胞」も原理的にはまったく同じです。まだまだ,実験段階のものでしかありません。それを,前倒しして,実用化をはかろうとしています。しかし,いったん,トラブルを起こすと手の打ちようがない,ただ,じっと見守るしかない,そういう代物であるということをわたしたちはしっかりと認識しておく必要があります。
 その実験室においてすら,東海村では,トラブルが起きると換気扇をまわして放射性物質を屋外に放出していたという程度の認識でしかありません。それを監視しているはずの原子力規制委員会は,こともあろうに「安全文化」が未成熟だからだ,と強弁しています。こんな「文化」レベルの低い人たちが原子力の専門家として崇められている国です。
 ですから,「幹細胞」(=iPS細胞)などに頼らなくても生きていかれる方途を提示することこそが,NHKの責務ではないでしょうか。それがまったくの「逆向き」です。このことの有り様こそ大問題です。もはや,マスメディアの役割をはたしていません。困ったものですが,これが現実です。そこを見極める「眼」をわたしたちは持たなくてはなりません。
 長くなってしまいましたが,追記させていただきました(2013年5月28日)。

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