2012年5月4日金曜日

義姉を見送る。戦中・戦後を生きた人。一味違う人の「生」。

義姉を見送る。行年85歳。晩年は入退院をくり返していたが,意識はとてもしっかりしていた。ことしに入っても手紙がきていたので,まだまだ元気だと思い込んでいた。しかし,急に衰えはじめて,あっという間だった,と長男(喪主)の話。柩に収められた顔はとてもきれいだった。善行を積んだ人は死に顔がきれいになる,と聞いている。

そのことばのとおり,義姉は,自分のことより他人のことを優先させる人だった。いい人だった。幼児よりあまり丈夫ではなかったそうで,無理の効かないからだだから,と口癖のように語っていた。しかし,その割には,じつによく働いた人だ。野良仕事のかたわら,編み物の下請けまでやっていたことがある。それも屋敷内に仕事場を建てて,何台もの編み機を据え,せっせと働いていた。身を粉にして働いていた,と子どもたちも認めている。

そんな働き盛りのときに,重い荷物を持ち上げたことが障って,腰椎圧迫骨折をしてしまった。それからはできるだけおとなしくしている,とは言いながら,痛みがとれると,また,もとのように働いていた。そして,また,脊椎の別のところを痛めたりしていた。そのたびに,もう懲りた,と言いながらも働いていた。とても芯のしっかりした人で,地味ではあったが,やるべきことはやる,という意志の強い人だった。

50歳のときに,運転免許を取得して,行動半径を広げた。このままではダメになるという危機感があったそうで,意を決して自動車学校に通った。みごと一回で合格して,予定どおり,必要なところにはせっせと足を伸ばした。とても好奇心の強い人で,わたしのやっている仕事にまで興味を示し,熱心に話を聞いてくれた。えっと驚くような質問が飛びだしてくることもしばしばだった。まったく違う世界の話に,真剣に耳を傾けることができる,大した人だった。

戦中に女学校に通っていたので,大した勉強ができなかった,とよくぼやいていたが,どっこい記憶力のいい人で,知識は豊富な人だった。この人の前ではうっかりしたことは言えないとおもったことがある。時折,いただく手紙は,みごとな文章で,語彙も豊富だった。その端々に文才がにじみでていた。義父が,次女であったこの義姉を跡取りと決め,養子さんを迎えたのも,こんなところに共鳴するものがあったからだろう。義父もまた,田舎の人ではあったが,とても粋な人だった。俳句をものしたり,書をよくしたり,料理もする,という人だった。たぶん,この義姉と義父は波長が合ったのだとおもう。

敗戦後の大変な時代を生き抜き,とにもかくにも,子ども3人を育て上げることに全力をつくした。自分が困っていても,他人が困っていれば,そちらを優先させる気配りの人でもあった。だから,大勢の人に好かれた。法事などで,親戚の人たちが集まったときも,みなさんがこの義姉を褒めていた。我慢強い,偉い人だ,と。だから,丸く納まるのだ,と。

一本,芯のとおった,みごとな人生を生き切った人だった。余分なことは一切言わない。口数も少ない。しかし,ここぞというときにはきちんとものを言う人だった。ものごとを慎重に考え,いつも熟慮を重ねる人だった。だから,ブレることがない。とてもすっきりした人生だった。一味違う人だなぁ,と尊敬していた。

そういう味のある人が,また一人,この世を去った。順番だとはいえ,寂しいかぎりである。

本来なら,お通夜からお参りをさせてもらって,昨日(3日)の告別式,分骨,初七日までお参りすべきだった。が,2日の新幹線のチケットはすでに売り切れだった。3日のチケットも苦労した。早朝のこだまのグリーン車の喫煙車の席しかないという。半病人を連れているので,立ったまま行くわけにもいかず,それにした。帰りは駅の窓口に飛び込んで交渉。でも,運良く,ひかりの指定席がとれた。

森の中の火葬場での待ち時間に,新緑があまりに鮮やかだったのでひとりで散策をした。すると,すぐ近くでうぐいすが鳴く声がしたので,しばらくたたずむ。そのうぐいすの声が,どんどん大きくなってくる。最後には,ほんとうにすぐそこで鳴いている。大きくて,響きのいい声だった。姿を探してみたがみつからない。そろそろお骨が上がる時間になったので,歩きはじめたら,なんとそのうぐいすが後を追うようにしてついてくるではないか。その卑近な距離を保ったままに。最後には,もう,耳元で鳴いているかとおもうほどの距離だった。建物に入るときにはひときわ大きく「ホーホケキョ」と鳴いた。建物の近くにいた人たちも,それに気づいて,こんな入り口近くまできて・・・と驚いていた。わたしは,途中から,故人の成り代わりだと信じて,その鳴き声に耳をすました。そして,お別れにきてくれたのだ,と。

帰りの新幹線に坐っていても,わたしの耳にはうぐいすの鳴き声が響いていた。希有なる体験がまた一つ増えた。

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