2012年5月20日日曜日

苦節20年,37歳8カ月の平幕力士旭天鵬の優勝,おめでとう!

17歳で旭鷲山と一緒に大島部屋に入門して,苦節20年。こんにちのモンゴル力士たちの活躍の道を開いたパイオニア。片方は,ワザのデパート旭鷲山ともてはやされたが,旭天鵬はその陰に隠れた存在だった。しかし,力士としての才能は旭天鵬の方が上だとわたしは期待していた。が,なかなか芽が出なかった。が,ようやく日の目をみることになった。一方,旭鷲山は早々に引退してモンゴルに帰国。そして,いまや国会議員として活躍。

今日の優勝の陰には,白鵬の存在が大きかった,とわたしはみている。白鵬は27歳。もはや押しも押されもしない大横綱である。しかし,その白鵬は,10歳も年上の大先輩に支えられてこんにちがある。同門のよしみもあって,大島部屋へはいつも出稽古にでかけ,新弟子時代には旭天鵬に稽古をつけてもらった。白鵬のいる宮城野部屋は小部屋で,強い力士がいない。だから,いつもあちこちに出稽古にいかねばならなかった。なかでも,モンゴル出身力士の多い大島部屋は,もっとも居心地のいい稽古場だった。

だから,旭天鵬は,白鵬にとっては文字通りの兄弟子のような存在だった。その大島部屋が,大島親方(もと旭国)の定年とともに部屋を閉じることになっていた。だから,白鵬は根回しをして,大島部屋の力士たちを宮城野部屋に引き取ってもらって,部屋が大きくなることを期待していた。そうすることが宮城野親方(もと竹葉山)にも喜んでもらえるものと確信していた。それがせめてもの恩返しになる,と。ところが,宮城野親方はなにを考えたのか,その提案を断ってしまった。なぜだ,と怒ったのは白鵬だ。

ここで,角界も羨むほどの仲良しだった親方と白鵬の関係が,真っ正面からぶつかることになった。それが,今場所の直前の話である。白鵬は親方と口も聞かない関係となった。朝青龍のときと同じだ。以来,いろいろの人が間に入って,一応,和解したことになっている。しかし,白鵬は場所直前の一門の連合稽古を親方に無断でさぼって大島部屋に出稽古にでかけた。親方はこちらにくるものと思っていた,という談話を明らかにしている。ということは,親方が直接,白鵬に声をかけなかったということを意味している。白鵬は「強い力士は連合稽古には来ないと思っていた」といいわけをしている。

その状態は,いまもつづいている。白鵬が,今場所,前半で大きく躓いた理由はここにある,とわたしは受け止めている(このことはすでにブログで書いたとおり)。後半に入って大関5人を倒し,横綱として一応の面目を保った。が,千秋楽は日馬富士に送り出された。みごとな八百長相撲だった。断っておくが,金銭の授受のない,人情相撲である。これが大相撲千秋楽の典型的な相撲である,という見本のようなものだった。素人にも玄人にも,十分見応えのある相撲で華を添えた。

こんな状態の5月場所に,よりによって旭天鵬が優勝したのである。しかも,その優勝パレードに白鵬がみずから名乗りをあげて旗手をつとめた。その車の助手席には大島親方が笑顔で乗っている。さあ,この光景を宮城野親方はどう受け止めたことだろう。この場所後の宮城野部屋がどうなるのか,わたしは心配である。白鵬は覚悟の行動である。しかも,これは美談として情報が流れている。しかし,一方では苦々しくこの情景を眺めている日本人も少なくないだろう。

すでに,ネット上を流れているように,今場所の白鵬は「謙虚さ」を欠いていた,と相撲関係者はみている。このままでは朝青龍と同じだ,とも言っている。こうして,すでに,白鵬バッシングがはじまっている。だから,わたしはあえてこの段階で言っておきたい。

朝青龍のときもそうだが,親方が指導者としての適性を欠いていることが,そもそもの原因なのに,そのことは隠蔽したまま,モンゴル出身力士だけが槍玉にあげられる。それは本末転倒ではないか。朝青龍の親方は元大関の朝潮だ。白鵬の親方は元平幕の竹葉山だ。弟子が親方の地位を越えていくと,その指導はなかなかむつかしいらしい。あの若・貴の両横綱を育てた実父である親方ですら,元大関だったわたしが横綱に指導すべきことは,もはや,なにもない,と言ったことがある。それほどに相撲界の地位は別格なのだ。そのことをジャーナリストは百も承知なのに,そのことは触れないで,親方の言うことを聞かない(じっさいには,会話が成立していない,いや,親方が無視している)という理由で,モンゴル出身力士たちを叩く。

このゼノフォビアが,大相撲の世界では当たり前のようにして,吹きまくっている。情けない,とわたしは思う。そして,なにかといえばモンゴル出身力士といって差別する。が,白鵬も旭天鵬も日本国籍を取得した立派な「日本人」なのだ。大相撲を取材するジャーナリストならみんな知っている事実だ。にもかかわらず,この事実は,あまり公にはされていない。

その証拠に,両国国技館から,日本人優勝者の額が消えて久しい,と新聞は書き立てる。これは事実に反する。日本生まれの,日本出身力士の優勝額が消えて久しい,と書くべきだ。しかし,そうは書かない。

この5月場所から夏場所の間に,またまた,大相撲は一波瀾あるのではないか,とわたしは危惧している。いずれは引退して,独立した部屋をもつことになるだろう白鵬がどのような行動をとるのか,まだまだ眼が離せない。

しかし,これもまた「大相撲」なのだ。むかしから,じつは,大相撲の世界はもめごとだらけなのだ。そのもめごとも含めて,相撲という「芸」を楽しめばいい,とわたしは考えている。少なくとも,どこぞの新聞記者のように大相撲を近代スポーツ競技と混同してはならない。大相撲の世界は歌舞伎界と同じようにみるべきだ。いやいや,歌舞伎界の方が「優勝劣敗主義」が明確でないことからも明らかなように,はるかに複雑怪奇だ。しかし,興業として「芸」を売っているわけだから,このことだけは忘れてはいない。ここがポイントだ。

大相撲もそれでいいのだ,とわたしは思っている。人気がなくなれば消えていくだけの話。だから,それほど日本人横綱が欲しければ作ればいい。免許を与えればいいのだから。あとは贔屓筋が判断することだ。

これで,ますます,大相撲が面白くなってきた。これまで伏せられてきた角界の裏側が露呈してくる。それも,モンゴル出身力士という存在のお蔭で。

そういうことも含めて,昭和に入ってからの最年長者優勝という名誉を得た旭天鵬関,おめでとう!こころからお慶びを申しあげます。これで自信をえた旭天鵬の来場所での活躍を期待したいと思います。

〔お詫びと訂正〕
このところ記憶だけで書いてしまって,あとで間違いであることに気づくことが多い。
白鵬はまだ日本国籍を取得していない。将来的に日本国籍を取得して,親方になる希望をもっている,という談話を読んだことがあり,それでもう,すっかり日本国籍を取得しているものだと思い込んでいた。したがって,上記の文章のうち,多くの修正が必要である。が,このときの気分の高揚はそのままにしておきたいので,このままとする。
正しくは,旭天鵬の優勝によって,6年ぶりの日本人力士の優勝が実現した,と書くべきところ。
お詫びして訂正します。

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